IT活用の進め方

 前回、IT活用が失敗する理由として、5段階に分けてそれぞれの理由をお話しました。具体的には

 1.目的が明確でない
 2.業務手順が明確でない
 3.業務手順の見直しがない
 4.自社のITレベルを履き違えている
 5.語句や意味の統一ができず、部分最適になっている

です。ITインフラ(LANやインターネット、パソコン)は、世界レベルでもかなり進んだ環境でありながら、業務効率やIT活用度は落第生状態なのです。

 今回から何回かにわたって、IT活用レベルを上げ、業務改善を進めるにはどのようにすべきかをお話していきます。

 

まずは、「ITシステムは道具だ」という当たり前のことをもっと自覚しなければいけません。経営者だけではありません、従業員も含め会社全体で、その意識を持たないと活用は失敗します。

「ITシステムは道具のひとつである」
「いい道具を買ったからといって、仕事が早くなるわけではない」
これらのことは、当然よく理解しているはずなのに、
「ITシステムを入れれば仕事は早くなる」と勘違いしている例が後を絶ちません。すばやい計算やミスの無い繰り返し作業をみて、「ITシステムは自分たちの代わりをしてくれる人」だと思い込むからです。 ITシステムは、どんなにがんばっても、当初計画した仕組み以外のことはできません。人間なら簡単に対応できるちょっとした修正(消費税の変更による売値の変更)であっても、変更を受け付ける仕組みが存在しなければ、システムは作り直しです。道具だから当たり前のことです。別の言い方をすれば、たとえ機能が少なく安価な道具であっても、それを使いこなせば、多機能つきの新しい道具よりはるかにすぐれた結果を出してくれます。高いERPソフ トを買わなくても、表計算ソフトでできることはかなりあります。大切なのは、業務改善を行う際に「いい道具を買う」ことではなく「道具を上手に使いこなす」ことに重点を置き考えることなのです。

 しかし、この考えを、会社全体に浸透させることは容易ではありません。トップダウンで「使いこなせ」といっても無駄ですし、外部講習会では業務と関係ない例題で説明を受け、大半の方は理解できないまま講習費だけかかるなどの悲劇が繰り返されています。
 目の前にある業務が既存ソフトで楽になることは、実践なくして自覚できません。経営者の方々が、自分たちが理解できないことを棚に上げ、「外部講習会や自助努力で何とかしろ」と言っているとすれば、それはあまりに無理であると気づいてください。

 では、どうすればいいのでしょう。

 まずは、業務をある程度知っている人の中から、既存ソフトを上手に使う人を育てましょう。社内でするのが難しければ、社外から支援してもらって核になる人を作る教育計画を立案・実行するのです。もちろん、その対象となった人については、業務評価とのリンクや核になることによる特典も同時に考えていかねばなりません。外部研修や講習会をうけたり、得たIT知識を社内に広めるための知識(コーチングやティーチング)も会得してもらう必要があります。

 業務を既存ソフトで上手にこなす人が育ったら、その人から周囲の人々へと、業務に即した形で便利な使い方を伝えてもらいます。そのためには、教えることが好きな人を最初に選ぶことも重要です。ちょっとITに詳しいからという理由で、特性を無視した人事をすると、自分の知識として囲い込んでおしまいという結果も起こり得ます。業務改善に意欲的で、かつ伝える手間を惜しまない人を最初に教育しましょう。

 業務のミニ改善をするのですから、引き受ける範囲が多すぎるのもだめです。おおよその目安として、従業員の10人から20人に一人以上いないとうまくいかないでしょう。

 遠回りに思えるかもしれませんが、このような人を育てることがIT活用の第一歩になるのです。