IT計画策定のポイント

 前回、教育とシステムのバランスについてお話をしました。そのまとめとして、「システムと教育のバランスを意識した計画・体制づくりがIT化の重要なポイント」ということをいいましたが、今回はその計画策定のポイントについてです。

 IT計画といってもその範囲は広く、大きく分けると下記の3つになります。

1.ITシステム計画
 市販ソフトウェアも含めた企業内で使用するアプリケーション及びシステムに関する計画です。市販ソフトの購入計画とシステム開発運用計画に分かれます。

2.ITインフラ計画
 各社員への端末(PC、携帯)やサーバー群、ネットワークを含めたハードウェアに関する計画です。ネットワークの内容が大きい場合は、IT機器調達運用計画とネットワーク計画にわけて策定します。

3.IT教育計画
 社員への集合教育、OJT、サポート体制の運用を含めた教育に関す計画です。また、教育で知識を与えるだけでなく、試験やアンケートによる状況確認も含みます。

 これら3つに関しては、さらに細かな計画が必要となります。しかし、それぞれは独立した計画ではなく、密接な関係を有します。個別の計画に関するポイントは次回以降として、今回は全体計画についてのポイントをお話します。

 まず、大切なのは会社の経営戦略・事業戦略との整合性です。会社が向かおうとする方向にあったIT計画でなければなりません。パソコンを導入して、ネットワークを組んで、有名ソフトを入れる計画を立てればOKと考える方がいらっゃ
いますが、会社の経営戦略とずれていると、無駄な投資であるばかりかむしろ足かせになる恐れもあります。例えば、経費削減で書類削減と権限委譲を戦略にしているのに、融通の利かない承認システムを入れてしまうと、旧来型の権限に縛られて委譲がスムーズにいきません。また、会議を減らそうとしているのに電子会議システムを導入し、利用頻度を上げるというのも反対方向と言えます。経営戦略・事業戦略をもとにして、どの方向のITを強化すべきか明確にした上で、計画を策定する必要があります。

 次に会社の成熟度を考慮することです。これは再三、このメルマガでもお話してきましたが、会社の現状を無視した計画は絵に描いたもちなのです。パソコン未経験者が多いのにいきなり一人一台は無理ですし、業務手順ができていないのにワークフローシステムを入れても利用はできません。自社の成熟度をきちんと理解し、それに見合った計画を策定すべきです。
  その際に注意すべきことは、ITの成熟度だけでなく、企業の成熟度も明確に評価し、両輪がうまく動くようにすることです。両輪のうち、片輪だけ先行してもうまくいきません。特にIT側の成熟度が先行してしまうと、費用対効果が低くなってしまいます。企業の成熟度を少し先行させるような形で、IT成熟度を高めるための計画を立てることです。

 次に、ライフサイクルを考慮することです。ITの進歩は著しく、ちょっと前なら実現不可能だったこと・高価だったことが、安価に簡単に実現できることも少なくありません。そのため、陳腐化したシステムを長く使い続けると企業寿命を短くしてしまいます。
   もちろん、成熟度を上げることと同様、新システムを使いこなし成果をあげることは一朝一夕でできるものではありません。大切なのは期間を明確にし、一定の期日(これをマイルストーンと呼びます)を決めて、システムの誕生、成熟、終了という寿命を計画に取り込むことです。特に、普及率をあげることはあっても、
システムに見切りをつけることはあまりなされていません。確かに有用であれば何年も使い続ければよいでしょう、しかし、必ず有用かどうかの見直し日を設定しておく必要があるのです。

 最後に、変化に対し柔軟に対応ができるよう意識することです。上記3つをきちんと踏まえて策定しても、時代が違う方向に動いてしまうことはあります。その際に、きちんとした方向修正が行えるようなポイント(切替点)を設けておくことが大切です。むやみに方向変更するのは、社員や顧客に混乱を招くもとですが、緩やかな修正もできないのでは問題です。
 長期計画をもとに短期計画を策定しますが、時代の流れで、修正された短期計画を元に長期計画もまた修正すべきであることを忘れないでください。長期計画は一度決めたら修正すべきでないという方もおいでですが、それは計画全体の整合性から考えればおかしいのです。個々の計画は独立しているのではなく、それぞれが影響しあっています。教育体制に支障があって成熟度が到達していないのに、期日だからとシステムをスタートさせるのが無駄なのは、自明のことです。逆にいうと、システムをきちんとスタートさせるためには、インフラと教育も準備完了できるような計画を策定するべきなのです。このとき重要なのは、クリティカルパス(=最重要計画線)を見つけ出すことです。この計画が遅延すると他の計画に影響するというものを、マイルストーンにあわせてチェックしておき、その進捗支援を最優先できる計画を策定するのです。計画は、チェック修正なしにはよりよいものにはなりません。計画の立てっぱなしにならないように注意してください。